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2005.10.03

大原美術館やなぎみわ展と記念対談

10/2
突然ですが実は数ヶ月前から大原美術館のメールマガジンを購読しています。きっかけは大原美術館で谷川俊太郎の朗読とライブがあるという情報を事前にキャッチできなかった悔しさからだったんですが。私も見たかったなあ…谷川さん。

んで、そのメルマガで今度の展覧会と初日の記念対談を読者10名様にご招待という告知があり特に用事もなかったので早速応募。
2日後にご招待のメールが来ました。

今回の展覧会は「秋の有隣荘特別公開 やなぎみわ Madame Comet-マダム コメット」

というタイトル。
まずは有隣荘って何?という話ですが。
美観地区の入り口にそびえ立つ大原美術館の向かいに綺麗な建物がありまして
これは美術館創設者の大原孫三郎が妻子のために建てた私邸で現在国指定重要文化財。
緑色の瓦が美しく、通称緑御殿とも呼ばれているそう。普段は非公開ですが年に2回特別公開されていてここ数年は一人のアーティストにプロデュースを依頼した個展形式になってます。
数年前には福田美蘭さんも有隣荘で個展を開催してたそうで。
それは行きたかったなあ…

当日集合場所の大原美術館分館で今回のチケットをいただいて対談会場のある分館地下の展示スペースへ。
ステージの壁には両サイドにテントをすっぽりかぶった人のモノクロ写真がかかっていて真ん中にスライドを映すようになっています。
13時ちょうどにやなぎさんと対談相手の高階館長が登場。
今回やなぎさんについて全く予習してこなかったのですが現れたやなぎさんがとてもお美しい方なのでびっくり。ビスクドール(陶磁器人形)と形容するのがぴったりの色白で目が大きくてちょっと年齢不詳な感じ。
(googleでイメージ検索してみてください)

そしてこれからスライドで紹介されていく作品とのギャップにさらに驚くことになるとは。
対談の前半は今までの作品や今回の展示をスライドで見せながらの説明。
今回は「エレベーターガール」シリーズは省略して「My Grandmotherシリーズ」と「寓話シリーズ」の抜粋からとのこと。

「My Grandmotherシリーズ」はいろんな年代の女性の、自分は何十年後かにこういうおばあちゃんになっていたいという願望をそのまま具現化してみせるという特殊メイクとCGを駆使した写真作品です。これはご本人のサイトでも作品を見ることができます。

私はやなぎさんの作品を見たことがないと思っていたのですがテントをすっぽりかぶった人はこの分館地下に飾ってあるのを見たことがあったし、「My Grandmotherシリーズ」の中の意地悪な占い師のおばあちゃんの作品がスライドで出たとき、「これ横浜トリエンナーレで見た!」と瞬時に思い出しました。
東京ビッグサイトへ楽しまの公録を見に行った次の日に
気まぐれで横浜へ行ったのは2001年のこと。
広大なホールに膨大な数の展示があったのに一瞬で場所まで思い出せた自分にちょっとびっくり。(→これ

なんとなく印象に残ってたもののイヤホンガイドを使わなかったので作品の意図などはそのときはわからずにいたのですがこうして再会できるとは。
このシリーズに応募してくる方のおばあちゃん像として多かったのは「終末思想が色濃く出ているもの」と「自分の家族」をテーマにしたものだったそうです。世界が崩壊に向かっていくなかで自分は生き残ってるだとか特別な使命を帯びているだとか自分中心になっちゃう人が多いんだとか。「自分の周りがどうなるかではなく世界全体のことに飛躍してしまうのはもしかしたら日本人独特なのかも。外国の方も多くモデルにしていきたい」というようなことを言われていました。

「寓話」シリーズは古今東西有名無名を問わずいろんな寓話の中から少女と老婆が出てくるものをピックアップしたモノクロの写真作品。
ほとんど自宅の一室で作られていて背景も部屋の壁に描いたそうです。作品によっては池を作ったり草むらを作ったり時には天井に穴を開けたりと制作時の苦労話を聴いてると「なにもそこまで部屋にこだわらなくても…」と思っちゃうくらい。老婆役は特殊メイクではなくマスクをすっぽりとかぶった少女だそうです。
ラプンツェルは外国の方に相当怖がられたとのこと。普通は金髪を想像するところが髪が黒いから余計に。
また白鳥が出てくる作品では白鳥の造形を調べるために倉敷に来たときに美観地区の白鳥を近距離で食い入るように観察してたら「白鳥がおどろくからやめてください」と怒られたのだとか。
(寓話シリーズはこんな感じです)

あと現在有隣荘で公開中の作品の紹介。
後で有隣荘に行ったら音声ガイドはなかったので(その代わり学芸員さんが進んで丁寧に説明してくださいましたが)これは後で見に行ったときにとても参考になりました。

対談の中では安部公房の「箱男」とやなぎさんのテントをすっぽりかぶった「テント女」(正式には砂女だそうですが便宜上こう呼んでいるらしい。ちなみに砂女というタイトルも安部公房の影響らしい)との対比についての言及が特に面白かったです。
曰く、「箱男というのはどこにでもある家電製品の箱に小さなスリットを開けて外を覗いている。つまり自分の存在は知られたくないが外に興味を持っている。
対してテント女はテントをすっぽりかぶってしまうと外は一切見えなくなってしまう。 そしてテントの内側には装飾品や鏡がある。つまり外には一切興味を持たず閉じた世界で自分だけを見ている」という感じの話でした。
この話を聞いて原美術館で現在公開中の砂女の映像作品も見てみたくなりました。(今まで制作が家の中だった反動で海外ロケを決行したそうです。スペイン語はやなぎさんの声だそうで。)
残念ながら私が秋に東京へ行くときにはもう公開は終わってるんですよねえ。

最後の質問コーナーでは「いつも背景まで凝った作品を作っているのに有隣荘の展示では背景が真っ白なのは何故か?」との問いに
「最初は背景があったのだけれど、有隣荘に合わなかったので外した」とのこと。
確かに日本家屋に掛け軸のように展示する絵に余白がないのはちょっと違和感あるかもなあ…
大原理事長からの「ご本人がお美しいのだから森村泰昌さんのようにご自分が作品の一部になるようなものを制作するおつもりは?」という質問に対しては、
「実は映像作品の中でテント女の役をやっているし特殊メイクをして今までの作品にも登場してます」とコメントし言外にそのままの自分で出るつもりはないみたいでした。

やなぎさんのことをあまり知らなかった自分でもたっぷり楽しめる興味深いお話を2時間近く聞けたのはかなりラッキーだったかも。
(椅子が硬かったことを除けばね)

その後お向かいの有隣荘の展示へ。
有隣荘に入るのも初めてなので興味津々。
靴を脱いで入ると最初の部屋は大きな暖炉のある部屋。
机の上に大きなバースデーケーキ。(もちろん食べられません)
しゃがんでテーブルクロスの隙間から机の下を覗くと老人に扮した子供たちが賑やかにパーティーをしている映像が流れています。
机の上はワイングラスがあるものの、まるで子供たちが食い散らかしたような惨状。ケーキはあちこちに飛び散ってテーブルクロスのすそやじゅうたんにまでケーキの欠片が転がってワインのしみもあちこちに。

壁には寓話シリーズの作品がかかっていてちょっと怖い感じ。
床の一部には砂も敷いてあります。
暖炉の横にタイル張りの全面ガラス張りの窓のある小さなスペースがあって、そこにはコメット(箒星)のタイトルにふさわしく真っ赤なほうきが。素材はバラの花束。花びらが部屋中に散らばっていてなんともいえない雰囲気。
隣の部屋へ行くときに廊下から見える庭も手入れが行き届いていて素敵です。
やなぎさんが部屋の中にも庭にもさりげなく箒をたてかけているのでしっかりチェック。

今度は一転して畳の和室です。
マダムコメットというタイトルの作品が2枚高砂のところに掛け軸のように上から吊るしてあって床までたらしてあります。箒を持った老女だったり少女だったり。
そのほかの造形作品は鏡が下に敷いてあって、表と裏で少女と老女になった仮面などが置いてありました。
2階に上がろうとすると階段下の係員の方が2階にいる人数とこれから上る人数をトランシーバーで確認しあって2階の客が降りてきてからどうぞ、と案内されました。
さすがに重要文化財だけあってそのへんは厳重。
2階にもマダムコメットがもうひとつ掛かっていますが2階は外の景色と緑の瓦も見所。
こんな場所に人が住んでたなんて…うらやましすぎる。

やなぎさんも今までの作家さんもそうらしいのですがご自分の作品をただ並べるだけではなくこの空間に合うように試行錯誤されたり全くの新作を作ったりするそうですよ。不思議な家とのコラボ、ぜひ一度見てみては?

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